− 奈良県 林産婦人科にて母子2人の命を救う −
2008年11月11日、奈良県香芝市にある医療法人白鳳会林産婦人科医院へ腹痛を訴える妊婦さんが駆け込みました。
妊婦さんは早期胎盤剥離を起こしており母体・赤ちゃん共に瀕死の重態でしたが、診断した林理事長のとっさの判断により、総合病院への搬送ではなく、系列医院の医師3人を招集し緊急手術を行うことを決断、そして警察の協力などによる医師たちの迅速な集合ののち帝王切開手術が行われ、奇跡的に母子ふたりの命は救われました。
病院の妊婦受け入れ拒否などによる悲しいニュースが続く中、林産婦人科医院のこのニュースは、私たち一般市民にとっても医療関係者にとっても、救いに感じられるような明るい話題となりました。
今回私たちはこの緊急手術を決断した林理事長にインタビューさせて頂き、一連の経緯から産科医療の現状にいたるまで、様々なお話を伺いました。
- まず、当時の様子をお聞かせいただけますか。
- お母さんが来られた時、強い腹痛と大出血が見られたのですぐに胎盤剥離だとわかりました。
胎盤剥離の場合、5割から7割の赤ちゃんは助からないと言われていますから、はじめご家族には残念ですが赤ちゃんは諦めて下さい、お母さんの命を優先します、とお話したんです。
救急病院への搬送も考えたけれど、救急車を呼んで搬送するにはあまりに時間がかかると思い、今すぐ医師を呼び寄せて、「ここで手術をしよう」と決めました。
それから警察にも協力して頂き、他院にいる医師を乗せて駆けつけてくれました。
そのおかげで、すぐに手術にとりかかることができたんですよ。
- 他の病院からでも、緊急時にはすぐに駆けつけるということを普段から指導されて
いるのですか。
-
そうですね、当院は「絶対にたらいまわしにはしない」ということをいつも約束しているんです。
緊急時にもなるべく自分のところで処置できるようにすることや、搬送する場合は、受け入れ先を見つけてから救急車に乗せる、そういうことを心がけています。
ただし、それもやはり“連携”や“協力”という意識がないとできないことですね。
今回も、すぐに駆けつけてくれた医師や警察や、待ってもらった他の妊婦さんたちなど、まわりのみんなの協力があったからこそできたことです。
こんな風に、協力し合うことでもっと助けられる命があるんだと言いたいですね。
だから今のような苦しい時代こそ、「自分のところだけは」ではなく、地域の医師同士ももっと助け合いの意識をもって、一緒に乗り越えていかないといけない時が来ているのだと思います。
- 産科医不足など厳しい今の状況を、先生はどんな風に変えていけると思いますか。
まず、やはり国はもっと産科医療を大切にするべきだと思います。
お産が減っていくことは、未来を作っていく子どもが減る、つまりは日本の国自体が成立しなくなるということを認識しないと。
そのためには、患者と医療側の両方が守られるシステムを作っていかないといけないと思いますね。
「妊娠」や「出産」というものを、もっと国とみんなが一緒になって喜べる環境を作ることが必要ですし、その先の「子育て」を支えていくのも国であるべきだと私は思います。
- 何か私たちにできることはあるのでしょうか。
-

- 両親教室
もちろん、国や医療に任せるだけじゃなく、みんながしなければならないこともあります。
補償されることに甘えるだけではなくて、子どもを持つことの大変さやそれを支える医者や医療側の厳しい状況もちゃんと理解しておかないと。
例えば、都会だから、大きい病院だからと甘えずに、今回のような緊急の事態はどこでも誰にでも起こるかもしれないという覚悟をすること。
だから私は両親教室などを設けて、お父さんとお母さんが一緒に参加してきちんと勉強して下さい、といつもお話しているんです。もちろん苦しいことばかりではなく、お産とは新しい命を生み出す素晴らしいことなのですから、そんな意識をみんなが協力して取り戻していかないといけないと思います。
− インタビューを終えて −
インタビューを通し、“子どもを持つことに希望を感じる人が増えてくれるといいね”、そうおっしゃる理事長の想いが、今回の明るいニュースにつながったのではないかと感じました。
お産をとりまく状況を少しでも良くしていくために、お父さんお母さん、地域の人々、医療関係者、そして国、それぞれができることを改めて考え協力する時がきているのではないでしょうか。
取材/文章 中村有希(Eu-D)
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